あらためて紹介したい傑作短編小説です

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2018年の海cafe2における面白かった本、
第1位に輝いたのは、「あなたに不利な証拠として」
でしたが、惜しくも選に漏れてしまった作品が
こちらの、レイモンド・カーヴァー傑作選です。
翻訳は村上春樹さんでして、本来なら
この本を選んでもよかったのですが、
同じ短編集という事で総合力で
「あなたに不利な証拠として」に軍配が
あがりました。

ただ、こちらのレイモンド・カーヴァー傑作選の
中には短編1つを挙げれば第1位にしても
いいぐらいの作品が収録されています。

「ささやかだけれど、役にたつこと」

この短編は私の心を鷲掴みしました。
何回も読み返しています。
そして読むたびに、毎回心を激しく
揺さぶられます。


~以下ネタバレあります~



この短編の主人公は小さな男の子の
お母さんであります。
息子の誕生日のお祝いにパン屋さんに
誕生日ケーキを注文します。
そしたら、愛する息子は車にひかれてしまいます。
ひき逃げというやつです。
その後、すぐに病院に運ばれたのですが
息子は目を覚ましません。

旦那さんと一緒に、息子の側で付きっきりで
看病するのですが、息子は目を覚まさないのです。
お医者さんたちも不思議がっていますが、
なんの問題もないと励まします。
今は身体が眠りを欲しているのだと。
検査をしたけど何も異常はないと。
ただ頭を打ってるので、一時的なショック状態に
あるので、目が覚めたら全ては良くなっていると。

夫婦は目を覚まさない息子の側を離れたく
ないのですが、側にいたところでどうなるわけ
でもなく、周囲から勧められ、交代で家に帰ります。

そうしたら、家に何度も何度も電話がかかってきます。
勘のいい人ならすぐわかる事ですが
電話をかけてる相手は、誕生日ケーキを注文した、
あのパン屋です。
注文して作らせておいて引き取りに来ないパン屋は
イラだち、何度も何度も執拗に電話をかけます。
母親は、息子の事で頭が一杯であり、
注文したケーキの事なんか、すっかり忘れています。
誕生日を祝う前に息子は事故で入院してるわけですから。

なかなか目を覚まさない息子でしたが、
ついに目を覚まします。
あたりを見回し、喜ぶ両親の姿を眺め、
そして、静かに息を引き取りました。

絶望の中、両親は帰宅。
そしたら、また電話がかかってきます。
ついに母親が思い出します。
あの男だ、あのパン屋の男のしわざであると。

夜中に夫婦はショッピングセンターの中にある、
パン屋に向かいます。
店には明日のパンの仕込をする、パン屋の
主人がいました。何度もしつこく電話をかけてきた
あの憎い男がいるのです。

パン屋は夜中に来店した夫婦に対し、
不信感をあらわにします。
そして、ようやく注文したまま取りに来ない
お客さんであるとわかり、腐りかけてるケーキだけど
早くもっていってくれ、と言います。
お金はいらないから持って出て行ってくれと。
面倒はゴメンだよ、と。

そこで母親は言います。
息子が死んだと。
誕生日を祝うはずの息子が死んでしまったと。
あなたを殺してやりたい、と泣き崩れます。
旦那さんも、「恥を知れ!」と叫びます。

ここからの描写は素晴らしい。
この作品って、ドラマ化とか映画化とか
されてるのですかね?
ここからのパン屋の主人を演ずるのは
並大抵の事ではないですね。
最大の見せ場になります。

パン屋は、息子さんの事は本当に気の毒であると
詫びます。そして自分のやった事は酷い事であったと
後悔します。
許してもらえるなら許して下さい。
私は邪悪な人間ではありません。
人間としてまっとうな生き方を見失ってしまったのです。
どうか解って下さい、そして許して下さい、と。

そしてパン屋は夫婦に食べ物を勧めます。
良かったら私が焼いたパンを食べて下さい。
ちゃんと食べて、頑張って生きていかなければ
いけないのです。こんな時はものを食べることです。
それは、

「ささやかだけれど、役にたつこと」なのです、と。

夫婦はパンを食べます。
母親は急に空腹を感じ、パンを
3つも食べます。

そして3人は語り明かします。
夜が更けても、誰も席を立たず、
話は終わります。

眠り続ける息子、心配する両親、
何も問題はないと楽観する病院スタッフ、
執拗にかかってくる電話、そしてパン屋の
独白、この一連の流れは本当に素晴らしい。
とくにラストシーン、パンを食べながら
会話を続けるところは息子を失った悲しみから
1歩ずつでも前に進んでいかなければいけない
夫婦、そして人としての心を取り戻さなければ
いけないと悟ったパン屋を象徴するかのような
太陽の朝の光が非常に印象的であります。

あ~、こんな素晴らしい小説を書いてみたいな~。
出てくる話は、どれをとっても不思議な話は
ないのですよ。どれも日常にあるささやかな事
ばかりなのです。
そんなささやかな事を一つ一つ丁寧に
浮かび上がらせていく手法というか
これこそが作者(そして訳者)の力量なのですな。
本当に素晴らしい作品であります。


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この記事へのコメント

2019年02月26日 23:02
カバーデザインをみたとき「黄昏○星群」かと思っちゃった!
(^_^;
中身は全然違うみたいですね、ネタバレ部分は読み飛ばしておいて、図書館で借りて読んでからのお楽しみにしておきます。

2019年02月27日 22:48
出ちゃっ太さん、どうもです。
あまりに何気ない日常の断片を
集めたものなのに、この短編集は
本当に素晴らしいです。
しかし黄○流星群のほうは、
奇想天外の話ばかりで、最近はとくに
つまらないものばかり。
この差はなんなんでしょうか?(笑)
しよこ
2019年03月02日 22:11
これ、すごくいいですよね。読んだとき、パン屋の光景がものすごくビジュアル化された記憶があります。

それにしても、年間のツートップがいずれも海外作品というのは面白い傾向ですな。
2019年03月02日 23:01
しよこさん、どうもです。
さすがというか、やっぱりあなたは
読んでいましたね(笑)
ご指摘のとおり、海外作品でいくつか
興味がある作家(いわゆる電波系)が
いるのですが、ブックオフで売ってるような
タイプではないので困ってます(笑)

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