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zoom RSS 村上春樹的文章講座 〜実践編〜

<<   作成日時 : 2018/06/27 21:35   >>

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昨日の続きです(笑)
いくつかの、お約束といえるキーワードを
考慮しつつ、思いつくまま
適当に文章を書いてみようと思います。
ちなみに実戦ではなくて実践が
適切かも(笑)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


パンツの右後ろポケットの中から、つぶれたセブンスターの袋を取り出す。中に入ってる煙草がどんな状態になっているかなんて想像がつく。曲がってるけど吸えるものが5本、折れてしまったものが2本。僕はその折れた2本の煙草をゴミ箱の中に捨てた。なんとか吸える状態のものを丹念に指でまっすぐに伸ばすようにしてから、その中の1本を口にくわえる。胸のポケットの中のジッポーは父親の弟(世間ではそれを叔父さんという)から、僕がまだ小学生の時に貰ったものだ。真鍮製でところどころ削れて地金がむき出しになってる、どこにでもある、ありふれたジッポーだが、幼い当時の僕にとっては宝物であった。東京の大学に入り、自然と煙草を覚え、叔父さんから貰ったジッポーは、ようやく本来の使命を果たすことになったわけだが、叔父さんは僕が煙草を吸う年齢になる前に、亡くなってしまった。

乾いた音を立てて火が点き、最初の一服を時間をかけて味わう。窓の外では朝から雨が降り続いている。
まるで天空にある蛇口の栓が壊れてしまったような勢いだ。このまま地上にあるもの全てが洗い流されてしまうかのようだが、その頃には誰かが蛇口の栓を直してくれるのだろう。
いつもならもうすぐ年上のガールフレンドがこの部屋に来る時間なのだが、彼女の息子が熱を出し、学校を早退してきたので行けなくなったと先ほど電話があったばかりだ。
「ごめんなさい」と彼女はしきりに謝っていたが、そんな事で不満を口にするほど僕は若くはない。ただ、電話を切った後、彼女の大きく豊かな胸の膨らみを思い浮かべると急に息苦しくなる。そんな気持ちを落ち着かせようと煙草に火を点けたのかもしれない。

僕は冷蔵庫の中を開けてパンとハム、チーズ、キュウリを取り出し、サンドイッチを作る事にした。更に冷蔵庫の中身を確認し、後で駅前のスーパーに行った時に買わなければいけない食材のリストを作った。
妻がいた頃から料理は基本的に僕の仕事だ。妻は大手の翻訳事務所の正社員として働き、通訳の仕事もこなしていたので帰宅はいつも僕よりも遅かった。僕自身も別の翻訳事務所に勤めていた(その事務所は彼女のところと比べると非常に小規模である)。途中で独立しフリーとなったわけだが、仕事の大半は彼女の事務所を経由しての依頼であった。

そんな妻が1年前に急に出て行ってしまったのだ。他に好きな人がいるので別れたいという電話があり、離婚届は郵送するので区役所に出して欲しいとの事だった。もちろん僕はすんなりと受け入れるわけにはいかない。電話ではなく、僕らはもう一度顔を合わせて話し合うべきだと提案したが、無理である事はわかっていた。妻は一度言い出した事は決して曲げない性格だからだ。こうして僕らの結婚生活は5年を迎える前に休止符を打った。
妻は何度も、あなたのせいではない、全ては私の問題なの。過去が失われてしまったからと繰り返した。過去が失われたってどんな意味なのか?まあ、そんな事をいくら考えても答えなんか見つからない事は最初からわかっている。私は今の事務所を辞めるけど、あなたへの仕事の依頼は今までどおり続けるように段取りしておくからと、最後は僕の生活の心配までしてくれる有様だった。

しばらく呆然とした日々を過ごした後、徐々に今までの生活を取り戻していく事にした。起きたらすぐにマッキントッシュを立ち上げ、メールを確認する。たくさんのメールの中から不必要なものを削除し何件かの翻訳の依頼を注意深く確認し、ノートにメモを取る。何件かの電話をこなしてから、仕事の段取りを組み立てる。大まかな全体像をつかみ、納期までの時間を逆算しつつ、具体的な翻訳にとりかかるわけだ。実際、この最初の大まかな全体像をつかむまでが非常に重要である。自分の翻訳の技術は人より格段に優れているわけではないが、この最初の段取りを組む能力には自信がある。だからなのかもしれないが、妻と別れた後も、大手事務所を中心に仕事の依頼は常に途絶える事はない。
自ら立てたスケジュールに沿って、一日の決められた量の翻訳の仕事が片付くと、午後はまとまった自由な時間を作れる事が多かった。そんな自由時間の大半を僕は近所の図書館で過ごした。隣接して区営プールが備わった施設なので、図書館で気ままに本を読み、飽きたらプールで1キロほど泳いだ。今の年上のガールフレンドと出会ったのはその施設内にある休憩スペースである。

図書館の帰りに駅前のスーパーに立ち寄り、足りない食材を購入し家に帰る。夕食はおもにパスタを作って食べる事が多い。妻がいた時は二人でよくワインを飲んだが、別れた今ではビールばかり飲んでいる。飲みながら必ずレコードを聴く。ほとんどが60〜70年代のロックだ。最近のロックも聴くが、自宅でビールを飲みながら聴く時は、レコードだ。ビートルズ、ビーチボーイズ、ストーンズなど、妻が出ていってからのほうが聴く回数が増えた。

キュウリに軽く塩をまぶし、パンの中にはさみこんでから、ゆっくりとナイフを入れようとしたとき、玄関のチャイムが鳴った。そうだ、確かにチャイムは鳴った。誰かがチャイムを押したのは間違いないのだが、その音色は僕には母親の姿が見えなくなり不安になった子猫の鳴き声のように思えた。

「早くドアを開けるんだよ」
僕は、その声のするほうを見た。

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壁際のゴミ箱の上に、だるまちゃんがちょこんと腰掛けていた。

「最近見かけないと思ったけどいたんだね」
「いると思えばいる。我思う故に我あり。やっぱりカントはいい事言うよ」
「それはカントじゃなくてデカルトじゃないかな?」
「最初からそう言ってるじゃないか。ハハハ」

妻と別れてからしばらくして、だるまちゃんが急に現れた時は本当に驚いた。子供の頃に読んだ絵本のキャラクターがそのまま動いて喋りかけてくるからだ。それも急に現れ急にいなくなる。そんな事が何度も繰り返されると、さすがに僕のほうも驚かなくなった。ただ僕にしか見えないらしい。年上のガールフレンドと一緒にいる時も、部屋の中をちょこちょこ動き回ったりしてたが彼女はその存在にまったく気がついていなかった。

またチャイムが鳴った。今度ははっきりと音を認識した。
「ほらほら。早く出ないと」
だるまちゃんに急かされて、僕は玄関のロックを外しドアを開けた。

そこにはずぶ濡れになった少女がいた。
小学生より上で高校生より下。おそらく中学生といったところか。少女は長く綺麗な髪を濡らし、少し震えながらまっすぐに僕の目をみつめていた。その丸く大きな黒い瞳の中に僕自身が吸い込まれてしまうような錯覚を覚えた。
「部屋に入れてほしいんだけど」
少女はぶっきらぼうに言って僕の返事を待つ前に部屋の中に滑り込んできた。まるで子猫が母親を見つけてその胸に飛び込むかのように。僕は少女に風邪をひくまえに暖かいシャワーを浴びたほうがいいと提案した。着替えは出て行った妻の部屋着(よくあるジャージというやつだ)でよければとりあえずそれを着るように勧めた。少女は僕の目をまっすぐ見つめたままシャワー室の中に入っていった。

冷静になってから、僕はその少女の事を知っている事に気がついた。別れた妻は本業の翻訳や通訳の仕事と平行して、地元の英会話スクールの講師もしていた。映画や海外のファッション誌などの中で使われている英語の表現などを学ぶようなスクールである。生徒の大半は知的で文化水準が高い若い主婦である。そのスクールには僕もプロジェクターの配線など妻が苦手なところを手助けするため何度か訪れており、ついでに後ろのほうで授業を聞いたりした事があった。そのスクールの生徒の一人が今シャワーを浴びている少女である。大人の女性の中で一人だけ少女が混じっており、ましてや誰もが振り返るような美しい少女なのだ。卒業アルバムを眺めてる友人が真っ先に目をつけるタイプの子だ。僕は妻に、あの子は学校に行かなくていいのか聞いてみた事がある。授業はいつも平日におこなわれていたからだ。あの子はなんか事情があって学校には通ってないみたいなの。でも頭は凄くいいわ。英語の発音なんて私よりうまい。おまけにあのルックスでしょ?でも可哀想に心に問題を抱えているみたいなのよね。

妻とのやりとりを思い出してるうちに、少女がシャワー室から出てきた。妻のジャージを着て髪の毛をタオルで拭きながら小さな声で、ありがとうと少女はつぶやいた。
「僕は君の事を知ってるよ。妻・・・、いや元妻が講師をしてた英会話スクールの生徒さんだよね」
「先生はどこに行っちゃったの?」
先生というのが妻、いや元妻の事を指した言葉だという事に気づくまで少し時間がかかったが、隠していても仕方がない。
「彼女はこの家から出て行ってしまったんだよ」
「本当!?」
「ああ、本当だよ。他に好きな人が出来たから、というのが理由のようだ」
「それを信じたの!?」
「信じるも何も本人がそう言ってるからしょうがない。それより彼女はスクールのほうは続けていたのかな?本業の翻訳事務所は辞めてしまったようだけど」

少女は僕の言葉をまったく聞く気がない様子で、自分の履いていたデニムパンツ(それを僕は乾かす為ハンガーにかけて吊るしておいた)のポケットの中に手を入れ中からしわくちゃになった封筒を取り出した。
「先生から私宛に届いたの」
少女はその封筒を僕に手渡した。消印は読めない。でも住所や宛名は妻の字だ。裏面には妻の名前が書いてある。
「読んでもいいのかな?」
「バカじゃないの?そのために大雨の中を持ってきたんじゃない」
中身の手紙は短い文章である。僕はそれを5回読み返した。そして手紙を封筒の中に戻し少女に返した。
その手紙には、自分が失われた世界にいる事。その世界から夫(僕の事だ)と一緒に連れ戻しにきてくれないか、というものである。

「おいおい、しっかりしろよ」
だるまちゃんが僕の肩の上に乗って心配そうに僕を見つめている。同じように少女も大きな瞳で僕を心配そうに見つめている。いや、心配してるわけじゃない。僕の肩のあたりを不思議そうに眺めているのだ。だるまちゃんの実体はまだ見えなくても、何かしらの異変に気がついてるのかもしれない。

「わからないよ。どんな未来なのか想像もつかないよ」
「元気を出せって。自分の未来を描けない奴が他人の未来を笑うってジェイムス・ブラウンも言ってるじゃないか。ちなみにイアン・ブラウンとは違うからね」
ジェイムス・ブラウンがそんな立派な事を言ってたなんて驚きだが、それよりだるまちゃんは、なんでストーン・ローゼズのボーカルを知ってるんだ?

「やれやれ」
「え!?何言ってるの?」

これから始まる長い物語のほんの序盤だという事に
この時の僕は知る由もなかった。

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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
力作の長文ですね! こんな調子でハードカバー一冊というのは読むのが大変そう。
確かに「家族が寝た後でゆっくり」でないと読めないですね。
村上春樹の文体模写をしつつ、しっかりパタリロギャグを入れているところが見事すぎます!

「やれやれだぜ」、じゃなくて「やれやれ」なんですね。
「やれやれだぜ」は空条承太郎でした(ジョジョの奇妙な冒険)

おなら出ちゃっ太
URL
2018/06/28 20:00
出ちゃっ太さん、どうもです。
パタリロネタに気づいてくれると
思ってました。ありがとうございます!
それにしても想像以上に疲れますね。
他人の文体を真似るというのは。
ただ、わけのわからないキャラクターに
だるまちゃんを選んだのは正解だったと
思っております(笑)

2018/06/28 21:25
だるまちゃんの笑顔が、パタリロのそれに見えてきた…
やれやれ。
おなら出ちゃっ太
2018/06/29 20:13
出ちゃっ太さん、どうもです。
この際だから、そのままパタリロを
村上作品に登場させても
面白そうですね(笑)
よくよく考えると、へたな小説よりも
パタリロのほうが、起承転結があり
オチも含めて上質なストーリー
だったりします。
破壊的なギャグばかり目立ちますが、
話がしっかりしてるところも
パタリロの凄いところですね。
某流星群とは大きな違いですな(笑)

2018/06/29 22:13

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